相続放棄しても空き家の管理義務は残る?残る人・残らない人Column
2026年9月19日
この記事では、「相続放棄をすれば、いらない空き家のことは考えなくてよい」と思っている方に向けて、相続放棄をしたあとも空き家の管理義務(保存義務)が残る人と残らない人の違いを、2023年4月1日施行の改正民法をもとに整理します。相続放棄の期限、全員が放棄したあとに何が起きるか、放棄せずに手放す道との比べ方まで、順にお伝えします。
「相続放棄すれば空き家から解放される」は半分だけ正しい
相続放棄とは、家庭裁判所に申し出て、亡くなった方の財産も借金もいっさい引き継がないことにする手続きです。相続放棄をした人は、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます。古くて売れそうにない空き家を相続したくない、というときに検討される方が多い方法です。
ただし、相続放棄には二つの注意点があります。ひとつは、空き家だけを選んで放棄することはできず、預貯金など他の財産も一緒に手放すことになる点です。もうひとつが、この記事の主題である「放棄したあとも、空き家の保存義務が残る場合がある」という点です。ここを知らずに放棄すると、「手続きは済んだのに、家のことで連絡が来る」という状態になりかねません。
改正民法940条:管理義務が残るのは「現に占有している人」
2023年4月1日に施行された改正民法940条では、相続放棄をした人が空き家などの財産をどう扱うべきかが、次のように整理されました。
- 相続放棄をした時点で、その財産を「現に占有している」人は、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産と同じ注意をもって保存する義務がある
- 占有していなければ、保存義務は負わない
「現に占有している」とは、たとえば亡くなった親と同居していた、あるいは親が亡くなったあとも鍵を持って家を管理している、といった状態です。この場合、相続放棄をしても、次に管理する人に引き渡すまでは、その空き家を保存する義務が残ります。
逆に、遠方に住んでいて実家に出入りしておらず、鍵も持っていないなど、実際に占有していない人であれば、相続放棄によって保存義務は負いません。改正前はこの点があいまいで、「放棄した人が管理し続けなければならないのか」が分かりにくかったのですが、改正で「占有しているかどうか」で線が引かれました。
「保存する義務」とは何をすることか
保存義務は、自分の財産と同じ程度の注意で、家の状態を保つことです。自宅であれば当然しているような、明らかな傷みや危険を放置しないという程度の管理と考えられます。ただし、どこまでが義務の範囲かは個別の状況によるため、ご自身が占有している空き家について相続放棄を考える場合は、弁護士や司法書士に確認したうえで進めるのが安全です。
相続放棄の期限は「知ってから3か月」
相続放棄は、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に申述(申し出)をする必要があります。この期間内に、空き家を含む財産と借金の全体を把握し、放棄するかどうかを決めることになります。
3か月は長いようで短い期間です。とくに空き家については、「売れるのか」「手放す方法があるのか」を確かめないまま、「古い家だから価値はないだろう」と放棄を決めてしまうケースがあります。放棄すべきかどうかを判断する材料として、期限内に空き家の見立てを取っておくことをおすすめします。
全員が放棄すると、空き家はどうなるか
相続人の全員が相続放棄をすると、その空き家を引き継ぐ人がいなくなります。この場合、空き家が自動的に国や市のものになるわけではありません。家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立て、清算人が財産を管理・処分する流れになります。
この申し立てには予納金(手続きのために裁判所へ先に納めるお金)がかかり、金額は事案によって異なります。つまり、全員で放棄しても、空き家を占有している人は清算人に引き渡すまで保存義務を負い、さらに清算人を選任するための費用が発生することがある、という点は知っておく必要があります。「放棄すればお金も手間もかからない」とは限りません。
放棄せずに手放す道と比べてみる
相続放棄は、借金が財産を上回っている場合など、有効な選択肢になる場面があります。一方で、「空き家がいらない」という理由だけで放棄を考えているなら、放棄せずに手放す道と比べてから決めることをおすすめします。比べるときの視点は次のとおりです。
- 空き家以外の財産:預貯金などの財産があるなら、放棄するとそれも手放すことになります
- 占有の有無:ご自身が家を占有していれば、放棄しても保存義務は残ります
- 放棄後の費用:全員が放棄する場合、相続財産清算人の選任に予納金がかかることがあります
- 空き家が売れるかどうか:古い家、再建築不可の家、家財が残った家でも、現状のまま買い取る会社に相談できる場合があります。物件によっては無償での引き取りも含めて相談できることがあります
相続して手放す場合は、相続登記(2024年4月1日から義務化。相続を知った日から3年以内、2024年4月1日より前の相続は2027年3月31日まで)を経て売却する流れになります。放棄の期限が3か月と短いからこそ、その期間内に「相続して売る」という道の見立てを取り、放棄と並べて考えることが大切です。
まとめ
相続放棄をしても、放棄の時点で空き家を現に占有している人は、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存義務を負います。占有していなければ保存義務は負いません(改正民法940条・2023年4月1日施行)。相続放棄は知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、全員が放棄した場合は相続財産清算人の選任と予納金が必要になることがあります。空き家がいらないという理由だけで放棄を考えているなら、期限内に「相続して手放す」道の見立ても取り、比べてから決めてください。
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本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法務の判断は税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご確認ください。制度の内容は2026年9月時点のものです。